我妻教育
お約束の展開とはいえ、まだお互いあいさつ程度の言葉しか交わしていないというのに…。

しかも小学生と高校生で一体何を話し合えというのか…。


“粗相のないように”

不意に、祖父の言葉が頭をよぎり、私を慎重にさせる。


現在、私の祖父は退院し、郊外の別邸で療養している。

昨日、そんな祖父の元へ見舞いに行った。

その時言われた言葉だ。


「未礼嬢のおじいさんとは学生時代の親友でな。
…まぁ、ずいぶんと会ってはおらんかったが…、家柄も良く信頼できる人柄だ。

未礼嬢は写真でも分かるように見目麗しく、性質もおおらかであると聞く。

年はお前より6つばかり上だがな、我が松園寺家の嫁となるに申し分のないお嬢さんだ。
決して粗相のないように」

私の祖父は未礼を強く推していた。


しかし、立って並ぶと6年の差は急に大きく感じられる。


165cmの長身の未礼は、白地に鮮やかな牡丹と百合が描かれた優艶な振袖が映える大人びた体形で、
かたや150cm程度のまだ子どもの自分。

見合いをするにはあまりに不釣合いとしか思えてならず、
かける話題を探しながら、未礼はどんな気持ちで今ここにいるのだろうと気になった。



いわば政略結婚。

そう簡単に断れる立場にない。

ある程度納得して来ているはずだとはいえ、小学生との見合いを不服に思わないはずはなかろう…。


なんとか表情やしぐさから本心を感じとれやしまいかと、未礼の顔を見上げた。


何かにふけるように、目の前にあるキンモクセイを眺めていた未礼はすぐに私の視線に気づくと、
ニコリと笑顔を返してきた。


感じよく笑うのは、お嬢様教育の一環でもあるのだろうか、そうたやすく笑顔の内側を読ませてくれはしない。

「……」

何を考えているのだろう。

はかりかねず、私は少々戸惑った。








< 5 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop