我妻教育
そんな私に感づいたのか、未礼の方が先に核心にせまる内容を口にし始めた。

私の顔をのぞきこみながら親しみをこめて。

「啓志郎君は、内心このお見合いどう思ってる?」

「どう、というのは?」

「こんな早くに将来決められて迷惑だ、とか」

「いいえ、私はお受けするつもりでいます」

「嘘。啓志郎君てモテるでしょ~。絶対。
かっこよくって、お金持ちで、勉強も運動も得意なんだってね。すごいよねぇ。

大人になったら、どんな若くてキレイな女の子でも選びたい放題なんだよ。
今からしばられるなんて絶対にもったいない。
無理することないんだよ」

「……」
何が言いたいのか。

遠まわしに「お断り」だと言っているのだろうか?

真意を探るため、注意深く、まっすぐ未礼を見た。


「…ごめんね。おじいちゃんたちが勝手に言い出した事とはいえ…、6つも上のおばさんと婚約させられたらたまんないでしょ…」

そう言いながら、未礼は申し訳なさそうに、苦笑いした。

「年の差は取るに足らぬ問題。申すまでもございません。
どうかお気になさいませぬよう…」

私から断ってくると踏んでいたのだろうか、未礼は、私の決意に少し驚いた様子だった。


私はもとよりこの縁談に異存はない。

相手がいくつであろうが、どんな女だろうが関係ない。

『先代当主である祖父が決め、現当主の父が同意した、見合い相手である』

それだけで十分だった。

むしろ決めなければならないものは一刻でも早く決めておきたい、そう思っていた。

断られては困る。


未礼は次の言葉に詰まり、表情には困惑が浮かんでいた。

そんな顔を見て、ふと一つの考えが頭によぎった。

「…もしや、他に将来を約束する男性がおられるのか?」

考えてみれば、未礼ほどの女ならば、男に不自由するはずはなかろう。

だが未礼はすぐに、手を横に振りながらはっきりと否定した。

「そんなのいないよ」

「ならば私からお断りする理由はありません」



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