我妻教育
机にむかって座っていたはずだったが、今は布団まできちんと被っていた。
いつの間にベッドに入ったのだろうか…。

「あ…!!」

次の瞬間慌てて飛び起きた。

「しまった!今日は空手の稽古の日だったではないか!」



基本、私は使用人に頼ることなく自己管理の上で生活することを徹底している。

寝過ごしたのは自らの責任だ。

稽古をすっぽかしてしまうとは、私としたことがなんという体たらくだ。


こんなミスが続くとは、どうしてしまったというのか…。


だが、過ぎてしまったものはどうすることも出来ず、一階の居間へ向かった。

もう夕飯の時刻だ。

未礼も待っていることだろう。





「あ、啓志郎くん、起きたの?」


部屋に入るなり、未礼が私にむかって声をかけてきた。

楽しそうにテレビのバラエティー番組を見ながらスナック菓子を食べている。

テーブルの上には勉強道具が広げられていたが、どうせ勉強などしてはいないのだろう。
のんきなものだ。


「起きた、とは…」


私が不可解に思うことをあらかじめ分かっていたようだ。

「今日、空手のお稽古の日だったよね。
時間になっても支度する気配がないから、どうしたのかと思って、使用人さんと一緒に啓志郎くんの部屋に行ったら、啓志郎くん眠ってたから」


スナック菓子を食べながら、時おり視線をテレビ画面に戻しながら未礼は言った。


「…稽古に遅れることがわかっていながらどうして一声かけてくれなかったのだ?」

ただの八つ当たりだとわかってはいたが、自分の口調が少々厳しくなった自覚がした。


未礼は、1.5リットルのペットボトルから、グラスに勢いよくコーラを注いだ。
テーブルに雫が飛びちる。


鬱屈しているのは、部屋の空気か私の脳内か…。


「え〜、だってよく眠ってたし、起こすの、かわいそうだと思って。
寝かしといてあげようって布団をきせてあげたの。
あはっ。この芸人さん面白いと思わない?」


目の前の未礼は、実に楽しそうで、かえって私の苛立ちを増幅させた。



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