【短編】また…いつの日か
「…みなさんがこの手紙の内容を聞いている頃、私はもう日本にはいないでしょうね。
私はある時から笑う事が無くなり、人と関わる事も避けて来ました。
私が新人で入ってきた頃からお世話になっている先輩方は、よくおわかりだと思います。
だけど、去年、ある人が私に言ってくれました。
私を変えると…。
その人に出会ってから、私は自分でも信じられないくらい、変わったと思います。
仕事が今まで以上に楽しくなり、笑うことも多くなりました。
その人は…今でも私の一番大切な人です。
その人に心から…ありがとう。
そして、部長、同じ部署だったみなさん、私の下で一生懸命に働いてくれたみなさん、4年間お世話になりました。
私はこの会社のこの部署で、働けたことを誇りに思います。
黙って日本を出発すること…許してください。
こんな私に憧れを抱いている人もいると、聞きました。
最後ぐらい、カッコイイままの私でいさせてください。
飛行機の中で泣いているでしょうから…。
またいつか、この部署に戻って来る日を夢見て…
東 奈津」
俺は部長が手紙を読み終えると、会社を飛び出した。
2回目の冬の海に行った日に、その人が口にした言葉…
2ヶ月、時間ちょうだい
その意味がやっとわかった。
俺は会社を出ると、タクシーに飛び乗った。
「空港まで!
急いでください!!」
空港に着いた俺は、必死でその人を探した。
「イギリス行きの便は!?」
俺は受付の係員に聞いた。
「8時30発の便の搭乗が20分遅れて、今終わりましたね。」
今終わった…?
20分遅れた?
もっと早く追いかけてたら、間に合ってた…?
俺は急いでポケットから携帯を取り出した。