愛しいキミへ
「沙菜…。」

沙菜に話しかけられたのは、クリスマスの日以来だ。
どうすればいいのかわからず、立ちすくんでいた。

「…先に行ってるから、ゆっくり話しなよ。」

直哉が気を利かせて、その場を離れる。
沙菜にも笑顔を向けて屋上を出ていった。
辺りを見渡すと俺と沙菜以外、屋上には誰もいなくなっていた。

自然と胸がズキズキと痛みだし、苦しくなる。
屋上に二人きり・・・
嫌でも、あの別れの日を思い出してしまう。

あの日以来、俺は極端に沙菜を避けた。
沙菜も気まずさからか、俺に話しかけることはなかった。
今も逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
・・・その気持ちを必死で押さえてはいるが、沙菜の姿を見ることができない。

しばらく二人は無言でいた。

「…卒業おめでとう。」

小さな声で沙菜が話した。
その声は風に消されてしまいそうなほど小さく・・・頑張って話しているという感じ。

「…ありがとう…沙菜もおめでとう。」

ぎこちなくなったけど、にっこりと笑って見せた。
気まずくて逃げ出したいけど・・・
沙菜に話しかけられて本当は嬉しかった。

俺の笑顔を見て、少しホッとした顔をする沙菜。

「…大学、受かったらしいね。母さんに聞いたよ。」
「うん。第一志望に合格できた。四月から無事に大学生だよ。」

優しい笑顔で会話をしてくれる。
少し前までこれが当たり前だったのに、こんな些細なことが俺の心を喜ばす。
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