愛しいキミへ
──どれくらい経ったかわからない。
くっしゅん!
抱きしめていた沙菜のくしゃみで我に返った。

「…このままじゃ風邪ひくな。家に帰ろう?」

離したくなかったけど・・・いつまでも雨に打たれていたら、風邪をひいてしまう。
すでにお互い服を絞れそうなほど、全身びしょびしょだった。

「沙菜…立てる?いこう。」
「うん…。」

カタカタと震える沙菜を支えながら、家の前まで送る。
足取りが重く、ふらふらしていて、支えがなければ倒れてしまうんじゃないかと思った。

「すぐにシャワー浴びて、暖かくしてろよ。」
「うん…。…雅樹もね。」

沙菜が心配で一緒にいたかったが、そうはいかない。
家に入るのを見送り、その足でマンションの近くの公園へと向かった。
時間はまだあった。
家に帰って着替えることも、傘を持つこともできたはず・・・でも今の気持ちのまま向かいたかった。

公園で立ったまま待つ。
朝から降り続いている雨で公園には誰もいなく、ザアァァァという音と少し離れた道路から聞こえる 、車のエンジン音だけだった。
バクバク…ドックン…ドックン…
時間が経てば経つほど心臓が波打つ。
落ち着けようと深く深呼吸した時だった───

「…雅樹くん?」

後ろから聞きなれた声に呼ばれた。
振り向くと、ドット柄で水色の傘をさした由香利が、驚いたように目を見開いて立っていた。
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