愛しいキミへ
「違う。そんなんじゃない。俺が…俺が最低な人間だから…。」
「それじゃ、わかんない!私は…別れたくない!!今日…記念日なんだよ…?なんで…そんなこと言うの?」

由香利の頬を大粒の滴が流れる。
雨じゃないのはわかってる・・・。
でも、雨だと思いたかった。
俺のために、こんなに涙を流してくれるなんて・・・わかりたくなかった。

「雅樹くん…やだ…。」

俺の腕を掴む手が震えていた。
さっきの・・・沙菜の姿と重なる。
こんなに傷つけた悠兄を最低だと思った。
でも俺も今、全く同じことをしているんだ──

「ごめん…。他にどうしても守りたい子がいるんだ。もう、この気持ちを誤魔化せない。」

ごめんっと頭をさげる。
由香利は何も言わなかった。
ただ涙を流し続けていた。

「傷つけて…本当にごめん。」

何も言われない空間に耐えられなくなり、もう一度頭をさげてその場を離れた。
それでも、由香利は何も言わず・・・追いかけてくることもなかった。
罵倒されたり、ぶたれたりしたほうが楽だったかもしれない。
「最低だ」と言われたかったのかもしれない。
こんな俺をまだ好きだと・・・ビシビシと伝わる空気が辛かった。

「人を振るのって…こんなにキツいんだ…。」

傷つけたくせに・・・なぜか自分が泣きそうになっていたんだ。

家に着くと、ちょうど洗面所から出てきた母さんと出くわしてしまった。
全身びしょ濡れな俺を見て、子供を注意するかのように怒られた。
< 82 / 276 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop