林檎と蜂蜜
部活には入らなかった。梨紗も何もしてないし、猛だって本の虫と化しつつあるから、俺だけ部活に入るのは不自然だ。自分の中でわけのわからない理由がそれだった。
「梨紗、わりいんだけど今日先帰っといて。」
席が近いことから、弁当は梨紗の女友達と俺の友達込みで一緒に食ってる。時刻は12時32分。昼休み真っ只中だ。
「え、なんで?」
メロンパンを頬張りながら首を傾げる梨紗の横で、草壁がにやにやと笑っている。
「梨紗ちゃん、野暮なこと聞くなって~」
「草壁、黙れ」
「りゅーじ君こわーい」
米粒を飛ばしながらゲラゲラと笑う草壁に頭が痛くなる。梨紗が横で若干引いててざまあ見ろって思った。
「ちょっと先輩に呼び出されたんだよ。」
「…そっか。」
答えにくいがそう告げたら、梨紗はそれきり俯いてしまった。無言でメロンパンを咀嚼してる姿は結構小動物っぽい。
部活なんてしていないから、そういう縦関係の先輩なんて俺にはいないことを梨紗は知っている。ということは、呼び出した相手が女だって考えに至る。女の勘ってすげえ。けど、女って自分のことになると結構鈍感だよな。
こいつが俺の気持ちに気づいていないことは、百も承知だ。
ただの幼馴染。
ずっとそうだった。