2LDKのお姫様
雨降る水曜日の午後は、人がまばらだ。だが相も変わらず、観光客は多い。そういえば、先週、久しぶりにK寺に行ったが、日本人を探す方が難しかった。


よくよく考えれば、バスが一番安かったのでは無いか、と思ったが、結局乗り換えがあるため、電車を選んだ。それに、電車の方が雰囲気も出る。


駅のマックは今日も満員。まあシオリのお手製弁当で昼食はタダだ。


電車に乗っても、シオリは落ち着かない様子だった。何度も確認して来たのに、髪型やメイクの濃さ、服の派手さを逐一彼にチェックさせた。


どうも年齢の事を気にしているらしい。年上とは言っても、まだまだ若いだろうに、若作り感を出さない為に必死だ。


「今日も可愛いね」


『うるさい』


初めての2人での帰省旅は、その一言で全てが一蹴される時間だった。


シオリは結局、車窓にも彼にも目もくれず、鏡を眺めていた。まあ車窓から見える風景も、さほど良いモノではない。


スタイルの良い人なので、いつもは大きく見える彼女も、今日ばかりは萎縮している。


長い黒髪は念入りにブローされていて、アイメイクは薄め。普段は着ないような愛らしい水色のブラウスに紺のパンツ、そして白い靴をはいている。


大は普段通りの、デニムとカーディガンで良いと言ったが、それは一蹴された。


まあ、似合っているが、いつ買ったのかを聞きたかったが、やめた。


電車を乗り継いで、彼の家までは徒歩5分。実に立地が良さそうだ。


最寄り駅を降りてからも、相も変わらず、シオリは緊張しっぱなしだ。


その顔と歩き方と言ったら、是非とも動画におさめたいモノだった。


昨晩は遅くまで挨拶の原稿を書いていたが、全くそれも心配だ。


「ついたよ」


『うん』


シオリの不安をよそに、大は勢いよく玄関の扉を開けた。


これも新しい門出の1つになるだろう。




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