Magical Moonlight

ひとときの幸せ

外に出ると、彼の姿が見えた。

「あれ?」

あたしに気付いたようだ。彼が、こちらへ向かってきた。

「ここで、何を?」

あたしは、吠えようとした。…ダメだ、今は人間の姿をしてるんだった。

「あ、あの…」

しゃべろうとするんだけど、うまくできない。

「ご、ご…めんなさい。しゃべるの、苦手なの」

一生懸命、そう言った。彼に通じてるか、不安に思いながら。

「すみません。急に声をかけてしまって」

彼はそう言って、頭を下げてくれた。

「もしよかったら、そこの公園で話をしませんか?こちらのお宅、今日は留守らしいので、待ってても、誰も来ないですよ」

この辺りで公園というと、あたしがいつも散歩に行ってるところだ。そこまで2本足で歩くのは…ツライかも。

「え、でも…」

「大丈夫ですよ」

彼は、そう言って、あたしの手を引いてくれた。


公園は、静まり返っていた。あたしたちの他には、誰もいない。

「座って、お話しましょうか」

彼は、あたしの手を取って、ベンチに座らせてくれた。…このベンチ、いつも散歩でご主人様が休憩取るところだ。あたしは、いつも見上げているだけだった。

「どちらから、来たんですか?」

彼は唐突にそう言った。

「え、あ、あの…」

あたしは答えに戸惑った。

「あ、ムリして言わなくてもいいですよ。人には、言えないこともあるでしょうからね」

彼は、そう言って、微笑んだ。

「あの家に、用事があるんですよね?」

あたしは、悩みながら、うなずいた。

「今日は留守だから、明日また来た方がいいですね」

でも、あたしには、“明日”はないのだ。

この姿でいられるのは、「鐘が鳴るまで」。それを過ぎれば、あたしは、元のキャシーに戻ってしまう。

「あなたこそ、家に帰らなくていいの?」

時計を見たわけじゃないけど、月はかなり高く昇っている。

あの月が、いちばん高いところに来た時に、鐘が鳴る。それまでには、家に戻らないといけない。

「まだ、帰りたくないんですよ。月がきれいだから、月を眺めていたいな、と思って」

彼は、そう言って、月を見上げた。
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