鈴が鳴る時―王子+ヌイグルミ=少年―
「着替える前に気付いてよかったな。それに、俺だけじゃ動けねぇし…。ま、減るもんじゃあるまいし、気にすんな」

「そうゆう問題じゃない!それに見張りなら、夏章さんが来ればいいじゃない!」

「あいつはただの付き添いだから駄目なんだよ」

 暁がふてくされたように言う。

「あぁ!もう!何が何だか分かんない!頭の中ぐちゃぐちゃ!魔法ってなんなのよー!」

 鈴音は髪を両手でぐしゃぐしゃと掻き乱す。

 寝癖の上に更に掻いたので、もう髪はぐしゃぐしゃで直すのが大変そうだ。

「昨日、夏章が説明したじゃねぇか。お前、もしかして学習能力ない?」

「昨日のは歴史みたいなものだったじゃない!私、歴史苦手だし、結局魔法が何なのか説明してないし、お妃様って何?魔法育成って何?」

「しっかり、覚えてるじゃねぇか」

「あぁー!もうこれ以上変なことになるのは、嫌ー!」

「…駄目だこりゃ」

 暁は前途多難とでも言いたげに溜め息を吐いた。

 鈴音はしばらく呻いた後、いきなり立ち上がって暁に向かって歩く。

「何だ?頭の整理は終わったか?」

「終わってないわよ。とにかく――――」

「?」

 鈴音は暁の頭を持つとベッドの中に突っ込む。

「うわっ。何にも見えねー」

「当たり前じゃない。見えないようにしてるんだから。着替えるからしばらくそこにいて」

「ちょ、ちょっと待て!ベッドの中っていうのは意外と苦しいんだぞ!」

「ヌイグルミに息苦しさなんかあるわけ?」

 喚く暁を軽くあしらって、鈴音は着替えに取り掛かる。

 今日の服装は袖が紫で裾にレース、中心に英語などがプリントされているTシャツに、ジーパン。髪をいつもどおりに結い上げる。

 鈴音はベッドの中から暁を取り出すと、また机の上に置いた。

「苦しかった…」

 暁は恨みがましげに呟く。どうやら本当に息苦しいらしかった。

「それより、何で折角人の姿に戻れたのに、またヌイグルミになってんの?」

「あぁ。これは、もしお前の家族とか来たときにいろいろ面倒だろ?何で男子が居るのか、て」

「あ、そっか」

「お前やっぱり馬鹿?」

「うるさい!」
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