今も恋する…記憶
とうりゃんせ

菊池からの手紙は数え切れ ないくらいになっていた…

さくらは、そのうちの数通に返事を出した。


全てに返事を書くには書いたのだが…


身体の調子が、いまひとつ良くならず、家からは一歩も出られなかったからだ。


春になり、夫の一周忌の法事をしなければならなくなって…

やっと、その頃には身体が軽くなった。

さくらの体調が良くなったところで、法事を執行ったが、

一人息子の孝一郎は父親の法事が済むと、自分の家族の元へとサッサと帰っていった。


去年の暮れから菊池との手紙のやりとりが始まり
春が過ぎてゆき、いまは夏に近付いている…


もう、半年が経過していた…

ふと、気がつき〃
庭に目をやると、


夏がそこに…
やって来ようとしていた
夏の草花が咲こうとしていたからだ。

初夏に、一番に咲くクレマチスという、花だったが、

その花の中でもひときわ目立っていたのは、

花名、クリムソンキングという、

花の深いピンクの色が、際立って美しい〃

その花の色が、さくらの脳裏には、くっきりと写されていたはずなのに…
その花の色も、そして、さくらの記憶の数々がー

おぼろげに通り過ぎていた…

静かだった。
とても静かだ…


透き通るような静けさの中にいるさくら…


「さくら!
こっちにきてごらん〃
川の水がものすごい、 きれいや…」


『ほんま、透き通って 光ってる…


見てあなた〃
この川の下、水晶が敷詰められてるみたいやわ』

「ほんまや〃
さくら、僕ら夢を
見てるみたいや…」

『夢とちがうん〃
ほんまなんよ…』





< 36 / 42 >

この作品をシェア

pagetop