今も恋する…記憶
埋み火

さくらの目が潤々として、涙が落ちている。


今、ここにいる彼は………まぎれもなく愛する菊池なのだ…


胸の奥から苦しいほどの切ない思いが、こみあげていた。


菊池がさくらの涙を拭ってくれている。


『ほんまに…
生きててくれはって
ありがとう』

さくらの声なき、
声がそう、ささやいた。

『さくら、
そんなふうに
いうてくれて、
ありがとう』


菊池がそんなふうに、
言ってくれたら、
さくらは嬉しいのだが…

「さくら、あの時から、 何年たったんやろ!」

「あの時からはね、もう 30年もたったん〃」


その二人の、あの時とは、
最初の別れから、7年目に
再会………

そして不倫の密会が始まり…3年後に終わりを告げられた時のこと…


その頃は二人とも、それぞれに家庭があり、なかなか会え無かった………

だが3年間も続いてしまった。

それも、菊池の転勤で、あっけなく終わり…

札幌と神戸に別れれて住むようになっていた。


その日から、
今日までずいぶんと長い年月の間…


菊池への思いを忘れることは無かった。


「ほんとうに、長かったなあ…」


菊池は、ほっとした顔でつぶやいた。


『ほんま、うちは…
あなたのことを、思い続けて、

あなたよりも、ずいぶん長く感じるわ。

もう少しで埋めた火種が消えるとこやったんよ』

さくらの脳裏には、次々と打ち寄せる、浜辺の波のように………


その当時のことが迫り…さくらの胸が熱くなっていた。


埋み火が灰の中から顔を出してきたのだ!








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