きゃっちぼーる
「起こすの悪くて」

 少女は文庫本にしおりをはさみ、立ち上がった。

 椅子の足が床を擦る甲高い音が響き、空気が激しく揺らいだ。

 一哉は近づいてくる足音に唾液を飲み込みながら、少女を見つめた。

 カッターシャツから伸びる腕は細いが引き締まり、スカートから伸びる足は、小麦色だった。

 やはり小麦色の逆卵形の顔の中、切れ長の目には、少し生意気そうな輝きが点っているが、同時に、大抵の人から悪い印象を持たれないだろうハツラツとした健康的な明るさがあった。

「山郡恵さんだよね。今日は良く女の子に話しかけられる。しかも美人揃い。もてもてだ」

 一哉は溜息を吐いて肩をすくめると、天井を見上げた。






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