いちえ
何となく話す事もなく、お互い口を開けないまま、私は瑠衣斗の背中を追った。
広い大きな背中は、キラキラと水滴が月明かりを浴び、輝いている。
こんなまじまじと見る事も初めてで、思わずじっと見つめてしまう。
ガッチリとした体型は、程よく筋肉が付き、長い腕は男らしく逞しい。
筋が浮かび上がるように、瑠衣斗が歩く度に月明かりによって照らされている。
ドキドキと加速する鼓動は、抑える術がない。
グッと握り込んだ自分の胸元に、更に力を込める。
いつの間にか、怖かった気持ちはどこかへ行ってしまった。
私は先ほどまで感じていた恐怖心なんて忘れ、いつの間にか瑠衣斗で頭が一杯になっていたのだ。
そんなじっと見つめていた私に向かって、突然足を止めた瑠衣斗が振り返り、反動でビクッと体が止まる。
チラッと一瞬視線が交わるものの、すぐ逸らされてしまう。
不思議に思う私に構わず、瑠衣斗が口を開ける。
「着いた」
着いた…?
何気なく、瑠衣斗の視線を追うと、私はその先の光景に目を見開いたのだった。
「なにコレ…」
「温泉。見りゃ分かるだろう」
目の前に広がる光景は、川のすぐ脇に造られた露天風呂だった。
いつもより少し明るい月明かりが、水面に写り込んで揺らぐ。
大小様々な大きさの岩で囲われ、川にはすぐ手が届きそうだ。
驚いたまま視線を戻すと、瑠衣斗が穏やかに微笑む。
「特別。一緒に入ってやる」