いちえ
「橋田です。松風の兄弟全員を受け持っていた、元担任です」
「…全員?全員って…慶兄も由来さんも?ですか…?」
何だかそう思うと、物凄く歴史を感じてしまう。
多分とっても失礼な事を思ってしまったのだろうけれど。
橋田先生の見た感じの年齢からしても、もう定年が近い事が伺える。
「そうだねえ…。特にコイツには骨を折ったなあ」
昔を懐かしむような視線に、横に居る瑠衣斗を見上げると、少しふてくされているような表情をしている。
思わず言葉に詰まると、そんな中穏やかに橋田先生が笑う。
「余計な事言うなよ」
「余計な事?余計な事とは例えば何だ」
「……別に…」
そんな2人のやりとりが可笑しくて、思わず小さく笑ってしまった。
ここには日陰になる物がなく、直射日光が肌に痛いくらいだ。
少し離れた所に、大きな木が植わっていて、そこからは蝉の鳴き声が絶えることなく聞こえてくる。
「まあ、久しぶりに来たんだ。中に入れ」
そう言って煙草を消した橋田先生は、私達に背を向けると、職員室へと続くガラス戸を開けた。
卒業生でもない部外者の私なんかが、入ってもいいのかな?
思わずキョロキョロとしてしまった私の手を、瑠衣斗がギュッと握り直すと、そのまま手を引いていく。
ずっと気になってはいたけれど、手を離さない瑠衣斗に従い、私はそのまま瑠衣斗と手を繋いだままだった。
何だろう…一応、紹介してくれたんだろうけど…私とるぅって……?
そんな思いを抱えたまま、私と瑠衣斗は、ガラス戸の中へと足を踏み入れた。