いちえ
「…み、見てくか」
「……うん」
2人して赤くなりながらも、瑠衣斗が勢い良く扉を開けた。
ガラガラと大きな音を立てながら、ガランとした教室内が目の前に広がる。
綺麗に並べられている机と椅子に、落書きの1つもない黒板。
その黒板の前に、どうしてこんな場所に穴があるの。と言うような教卓。
並んで中に入ると、瑠衣斗に連れられるがまま、廊下側とは反対側の中庭のよく見える眺めの良い、一番端の一番後ろの席へとやって来た。
そして瑠衣斗は、ようやく私の手を離すと、躊躇する事なく椅子を引いて腰を下ろした。
何だか当たり前のように、机に肘を付いて前を見つめている瑠衣斗に、頬が緩んだ。
きっと私も、座るものだと思って手を離したのかな。
そう思いながら、迷った末に瑠衣斗の前の席に、背中を向けて座った。
席は1つしか違わないから、きっと殆ど変わらないこの景色を、こうしてるぅは見ていたのかな。
「るぅの席が一番後ろなのは、やっぱり背が高かったから?」
「ううん。教卓殴ったらここにされた。それからずっとここだった」
まさかの回答に、私は吹き出した。
あの穴、るぅの仕業なんだろうな。
校舎の中は、ひんやりとして日差しが熱いくらいだ。
瑠衣斗がこうして、この景色を見ていて、それを私も見ている。
不思議な気持ちと、嬉しさ。
「るぅの前に座ってた人が女の子だったら、きっと毎日ドキドキだね」
「…何だよ。俺ビビらせるよーな事してなかったぞ」
「違うよ?るぅの事が好きで、ドキドキしちゃうの」
せっかくるぅと、高校三年間一緒だったのに…何だか勿体無い事しちゃった気分だなあ。
そう思った所で、瑠衣斗からの返事がなく不思議に思う。
そして、一瞬間が空いたと思った時には、ガタンと言う音と共に、後ろから瑠衣斗に抱き締められていた。