いちえ
そしてそんな瑠衣斗は、ツーンと視線を逸らしてしまう。
少し子供っぽい仕草に、思わず苦笑いが漏れる。
今は教えてくれそうにないし…後で聞こう……。
結局今はその意味が分からないまま、取り留めのない話をして、私と瑠衣斗は学校を後にする事にした。
職員室から外にでると、暑い日差しが少し傾きかけていて、いつの間にか空が茜色に染まり掛けていた。
結構な時間をここで過ごした事に驚きながらも、幻想的なその景色に見とれてしまう程だった。
「気を付けて帰るんだぞ」
その時、背後から掛けられた優しい声に、後ろに振り返る。
穏やかな顔をした橋田先生が、私と瑠衣斗を見つめている。
本当にこの人は、なんて優しい顔をする人だろう。
これじゃあ、どんなに悪事の数々を繰り返していたるぅでも、こんなに優しい顔をされたら適わないのかもしれない。
「また近いうちに来るよ。コイツと」
握っていた私の手を、軽く前に挙げて見せた瑠衣斗が、フッと顔を緩める。
それにつられるようにして、橋田先生に目を向けると、優しく微笑まれる。
そんな顔を見ていると、自然と私の頬が緩み、笑顔がこぼれる。
「またお邪魔します」
「いつでも、瑠衣と一緒においで」
「はい。ありがとうございました」
私の言葉に、満足そうに笑うと、それを合図のように私の手を引き瑠衣斗が歩き出す。
「じゃあな」
瑠衣斗の言葉に慌ててペコリと頭を下げると、軽く手を上げてくれた橋田先生が、ニコニコと笑って見送ってくれた。
心に暖かいものを感じながら、私は瑠衣斗の手を握り締める。
それに応えるように、握り返してくれる瑠衣斗に、嬉しくて頬を緩ませた。