いちえ
校門に近付くにつれて、普段から口数が少ない瑠衣斗が、更に少なくなり、最終的には口を開ける事もなくなる。
すっかり延びた、2つの凸凹に並んだ影法師。
そして、その影法師にもハッキリと写る繋がれた手。
私はこういう時、何て言葉をかけたらいいのかなんて、分からない。
気の聞いたセリフなんて、言える人間じゃない。
それどころか、そんな言葉やセリフは、きっと瑠衣斗も望んでいないだろう。
私がそうであるように。
「ねえ…るぅ」
「…ん?」
チラリと私を見つめた瞳に、少しだけ悲しみを隠したような色が見える。
今、るぅはどんな心境…?
何を考えてるの?
そんな思いを隠すように、私は瑠衣斗を見上げた。
「今度は、何かお土産持ってこようね」
「うーん…そうだなぁ。じじいだから茶菓子ぐらいか」
本当に、先生にお前と言ってみたり、しまいにはじじい呼ばわりしてみたり。
中学生の頃のるぅに会ってみたいよ。
そんな瑠衣斗に、分かりやすく笑う私を、瑠衣斗が分かりやすく怪訝な顔を向けてくる。
素直じゃなくて、私にはよく分からない瑠衣斗。
でも今は、素直すぎて、私にはよく分からなかった瑠衣斗。
「久斗君にも。ね」
目の前には、大きな校門。
一瞬目を見開いた瑠衣斗が、はにかむような、ふわりとした笑顔で目を細める。
振り返れば、久斗君が見た最後の景色がある。
でもきっと、瑠衣斗はもう振り返らない。
少しずつ、前に歩き出したから。
私と瑠衣斗は、そのままゆっくりと並んで校門を抜けたのだった。
来た時と同じように、手を繋ぎながら。
来た時とは違う、気持ちのまま。