小悪魔は愛を食べる
「は?なんだよ急に」
思いがけない少女の台詞に、壱弥は目を瞬かせた。少女は壱弥の頬を引っ張る手を離して、乱れた制服の胸元を整えながら言った。
「瀬川くんさー、殆ど勃ってないんだもーん。もっと軽い感じで遊べるかと思ったのに、けっこう一途なんだねぇ。つーかアタシの体に欲情しないなんて、どっか変!むしろ病気よ、病気。ぜったい」
病気呼ばわりされ、一瞬言葉を失ったものの、壱弥はそれが少女の強がりだと気付いてひどく申し訳ないような気持ちにさせられる。
目を伏せた壱弥を恋い慕うみたいにして見つめる少女から壱弥は黙って体を離し、そして自らも乱れた着衣を整える。
制服のネクタイを緩く締めたところで、少女の唇が薄く開いた。
「華原さんね、嫌がらせされてるよ。うちのクラスの女子に。って、時々鞄とか荒らされてるからこれは瀬川くんも知ってるか。けどこの間のジャージはね、佐渡さんとかその辺のグループの子だったみたい。あとね、これはけっこう皆言ってる噂なんだけど、そのうちリンチするかって話もあるみたい。気をつけてあげた方がいいよ。それから、里中さんにも気をつけて」
「里中さん?」
なにを言い出すのかと訝しんだのも束の間、予想していなかった名前に、壱弥が聞き返した。少女はこくんと神妙に首を縦に振る。
「そう。里中さんね、実は性格悪いんだよねぇ。アタシ同じ小学校だったから、この学校で清楚気取ってるギャップにびっくりしちゃった。だから、その里中さんが彼氏に手出されて黙ってるとは思えないから、これは本当に気をつけてね」
少女の真剣な声音を受けて壱弥は「わかった」と返した。
すると少女の目からぽろりと涙が零れ落ち、床を濡らす。慌てて少女が手で床の涙を拭った。泣いているなどと、同情されたくなかったのだろう。
それを見て、壱弥は何も言わなかった。言ってやれる言葉がみつからなかった。少女がまた口を開く。