小悪魔は愛を食べる
「なんですか、凛子先生」
「いえね、すっかり保護者だと思ったらおかしくて」
「えー。やだよ真鍋くんが保護者なんてー。イチがいー」
「俺だって嫌だよ。つーかお前が一人だから仕方なく付き合ってやってんのに、なんだその言い草。ふざけんな華原」
「あははっ!そーでした」
ごめん。とはにかんで舌足らずに言う芽衣に、真鍋がふんと顔を逸らした。
それを見て慌てて芽衣が何度も謝る。
けれどもシカトを続ける真鍋にどうしていいかわからず、芽衣が半泣きで凛子に助けを求めようとした時、がらりと出入り口が開いた。
「あ、イチ」
「ん?なに?どういう状況?」
目を潤ませて縋るように見つめてくる芽衣の視線に、壱弥が首を傾げて凛子と真鍋を見た。
凛子は我関せずとパソコン画面から視線を離さない。
すると真鍋が口元をニィと吊り上げて壱弥に向かって手招きをした。
「なんだよ?」
横に立った壱弥を更に手招いて腰を曲げさせると、真鍋が耳元に口を寄せて喋った。
「ふうん。やっぱりな」
気色悪さにぞわりと壱弥の腕に鳥肌が立つがしかし、真鍋の言葉に今度は体が固まった。
「お前、そのまま華原に近寄るなよ」
「は?」
「女の残り香、ついてんだよ」
固まった壱弥の肩を叩いて真鍋が体を離し、そこで漸く我に返った壱弥が頷いた。
芽衣が訝しそうに二人を凝視して、「やっぱり真鍋くんてホモなの?」と真剣に訊いた。
「はぁ!?真鍋、ホモって」
「あのね、さっきね、真鍋くんに好きな人誰って訊いたら、イチって言ってたんだよ。だからホモだよ。イチ狙われてるよ。あぶなー」
「危なー」
若干引き気味の姿勢で真鍋から距離をとった壱弥に、「ちゅーしたろか」と半眼で睨んだ真鍋の表情が微妙に笑みを湛えていて、芽衣が笑んだ。
と、不意に凛子が横から壱弥に何かを投げて寄越す。
片手で掴んだ壱弥が手の中を覗き込むと、それはコンビニおにぎりだった。
「余ったからあげるわ。どうせまだ昼食べてないんでしょ」
「サーンキュゥ凛子ちゃん大好きー」