小悪魔は愛を食べる
* * *
「見ろよ、これ。火傷の痕じゃん?」
男の指が何度も薄くなっている皮膚を撫で付ける。
もうやめて。触らないで。
火傷で皮下組織が破壊された後に出来るツルツルの皮膚は通常の皮膚よりも更に神経に近くて敏感なのだ。触れられるたびに、腰が震える。
まるで喜んでるみたいな動きに、興奮した男が圧し掛かってきた。
蹴られたお腹の痛みと、気持ちの悪さに胃液を吐き出す。汚いと、嗤い声が上がった。
「なんだよ。ずいぶんお高くとまってると思ってたら、ただのキズモノじゃねぇか」
キズモノ?違う。これはそんなモノじゃない。愛だ。これは愛の痕だよ。何も知らないくせに、勝手なこと言わないで。
体の感覚がひどく遠かった。自分の体じゃないような気がして、抵抗する事すら思いつかない。
芽衣は圧し掛かる男を半眼で見遣って、唇を歪めた。
ばーか
声の無い嘲笑に、男の拳が振り上げられた。殴られる。けれど、芽衣は目を閉じようとはしなかった。もうどうなっても良かった。
ドンッ!!
「なっ」
衝撃音に、男がドアの方に視線を動かす。芽衣を押さえつけていた女の力も僅かに緩んだ。
誰かが、ドアを蹴っているのだ。何度も何度も、爆発しているような音が鼓膜に痛かった。