小悪魔は愛を食べる

やがてカシャンとはめ込み型の長四角の鍵がドアから落ちた。開け放たれたドアに、芽衣の体の上で三人が息を飲んだのが生々しくて気持ち悪かった。

「鍵までかけてお楽しみのところ悪いんだけど、それ離してくれる?」

暗い音楽室に、廊下からの明かりが眩しかった。逆光で誰かわからないが、どうやら助けに来てくれたのだけは確かで、芽衣は強張っていた体の力を抜いた。

男が芽衣の上から体を退ける。ケータイで画像を撮っていた女も、芽衣の腕を掴んでいた女も、芽衣から距離をとった。
もはや体を起こす気力も無い芽衣は、ゆったりとした動作で顔をドアの方へ向けただけだった。

カツカツと音が響く。寝そべった体に、床から振動が伝わってくるのだ。

「……河野と佐渡、そっちは…新見?なに撮ってたの、俺にも見せてよ」

声が心地いい。体を抱き起こされ、芽衣は声の主を見た。芽衣が小さく、「くらさわくん」と呟く。絢人は自分の上着で芽衣の剥き出しの下半身を隠し、優しい手つきで頬を撫でた。

これは夢かもしれないと、芽衣が絢人の胸にしがみついて顔を埋める。温かくていい匂いがした。やっぱり絶対夢だと目を閉じてみる。
と、絢人の手がぐちゃぐちゃになった髪の毛を手櫛で整え、抱え込むようにして抱き締めてくれた。

暫くの間、絢人の動向を窺っていた三人が、急に浮き足立つ。足音が急ピッチでこちらに駆けてくるのが聞こえ始めた為だ。段々と近くなってくる足音に、新見の手からケータイが転がり落ちた。

「芽衣っ」

声と共に、ドア口から人影が飛び込んできた。

芽衣を抱き締めている絢人と、飛び込んできた壱弥の視線が合う。けれどそれはすぐに逸らされ、ぎりりと壱弥が歯を食いしばって、河野を睨みつけた。

もしも視線で人が殺せるのなら、今頃河野は生きてはいまい。そんな殺意の篭った眼差しだった。

「瀬川、そこのケータイのデータ消して。撮ってたみたいだから」

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