小悪魔は愛を食べる
「芽衣、保健室でも行く?社には私が言ってあげるから」
「やだ」
「でも干乾びて死なれたら困るし」
「だいじょぶ」
「いや、大丈夫そうに見えないから心配してんだよ?」
「だいじょぶ」
全然ちっとも大丈夫そうじゃねぇよ。言いかけた言葉を姫華は飲み込んだ。芽衣の視線がグラウンドの中から何かを探し出そうとするみたいに真剣だったのだ。
「もしかして倉澤探してんの?」
「え、あ、うん。まあ、そのような、そうじゃないような」
「は?」
「ちょっと、ね。こ…ココアの君を」
「誰だそれ」
半眼で姫華がグラウンドを睨んだ。なんだ、ココアの君って。馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが遂に暑さでイカレたかと姫華が無駄に頭を悩ませていると、芽衣がごにょごにょと珍しく言い難そうに語り出した。
「さ、さっきですね」
「なんで敬語になる?」
「や、うん。まあ黙ってきいてよ。さっきですね、自販機の前で素敵な出会いをしてしまった、です」
「うん」
「出会ったのです」
「うん」
「であ」
「出会ったのはわかった。だから、続きは?」
遮って続きを促すが、芽衣はきょとんとして「それだけだよ」と云った。
「はぁ?じゃあココアってなん」
「これ」
ずいと眼前に差し出されたココアの缶に、今度は姫華がきょとん。
「うん?」
「これ、買ってくれた」