小悪魔は愛を食べる
にこにこと満足そうに手の中で缶を転がす芽衣は幼い子供みたいに可愛い。ブルガリの時計とかもらってる奴が120円のココア一缶で幸せいっぱいの笑顔を見せるなんて正直詐欺だと思うんですけど。と思わなくもないが、実際芽衣は貰える物は貰うが実は本人はそんなにブランドに興味あるわけでもないのだから、ブルガリの時計やら貴金属やらよりもココア一つが嬉しいという事もあるのかもしれなかった。
「だれに?」
「だから、自販機の前で出会った素敵な」
「それはわかったから、出会った素敵なココアの妖精さんはあの中の誰かって訊いてるの」
グラウンドを指差して言う姫華に芽衣が慌てて前のめりになる。
「あ!はい!ココアの妖精さんはですね…」
「うん?」
「えーっと」
きょろきょろと忙しなく探し出した芽衣につられて姫華も真剣にグラウンドの米粒みたいになっている男子を目を凝らして見る。やはり壱弥はゴールキーパーのすぐ近くにいる奴らしく、タルそうに足で土を均していた。
「あ!」
「え?」
「あれあれ!あの、えっと…真ん中からちょっと左のとこにいる…」
「どれ?」
「赤ゼッケンつけてる…」
「ああ、あの背高い細身の……え?」
「ん?どうかした?」
顎の下に緩く握った手を当てて姫華が目を凝らす。どうしてか無駄に芽衣が焦って「なになに?」と喧しいが、振り向いた芽衣いわくココアの君の顔を見た瞬間、「おい」と姫華の唇から低音が吐き捨てられた。
びくりと肩を上げて芽衣が姫華を見つめる。
「あれ、倉澤なんだけど」