小悪魔は愛を食べる


「な…なによ!三島さんには関係ないじゃ」

静かに命じられ余計に引っ込みがつかなくなった佐渡が声を張り上げる。精一杯の虚勢である事はわかりきっていた。しかし姫華は、芽衣の腕を握る佐渡の手を睨みつけ、容赦なく首が絞まるように上体を持ち上げる。

「芽衣から手放せって言ってんのが聞こえねぇのかよ。その粗末なツラぶん殴っぞ、アァ?」

呼吸が苦しいのと姫華の剣幕に耐え切れなく佐渡は顔を真っ赤にさせて芽衣から手を放した。

「大丈夫?芽衣」

「…ん。ちょっと赤くなっただけ」

赤くなった二の腕を擦りながら芽衣が戸惑うように伝えると姫華は「そう」と素っ気無く言い、涙目になりながらも未だ睨んでいる佐渡に向かって口の端を上げた。

「佐渡さー、そういうの逆恨みって言うんだけど、知ってた?あんたの彼氏ってたしかE組の河野だったよね。私の記憶違いじゃなかったら二週間くらい前に向こうから勝手に芽衣に告ってきた思うんだけど…」

「違うわよ!そ、そっちが色目使ったんじゃない!!」

「はあ?頭だいじょーぶ?芽衣がてめーごときの彼氏に色目使うわけねぇだろバーカ」

まるで可哀想な生き物を見下すかのように嫌な笑顔で佐渡を圧倒する姫華に芽衣は地味に「河野ってだれ?」と悩んでいた。

当事者をシカトした終わりの見えない言い争いに佐渡の後ろの三人が戸惑いを顕わに「三島さんとモメるのはやばいって」「うん。だって親ヤクザなんでしょ」「うっそ。まじヤバくね」と囁き声がする。

しかしヒートアップしていくに従いレベルが低くなっていく口喧嘩に終わりがきそうな気配はなく、芽衣がようやく「ああ。河野ってあの卓球部の!」と思い出したところで、それまで恋人の応援に燃えていた体育教師の社真奈美が持参していた応援用のメガホンで姫華と佐渡の頭をはたいた。

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