小悪魔は愛を食べる
「え、えー?うそだー。だって倉澤くんはもっとインテリっぽい眼鏡の」
「だからあれは眼鏡外した倉澤だっつの!てめー何見て倉澤に告るって言ってたんだよ!眼鏡にでも告るつもりだったのか?えぇ!?この馬鹿!!」
「うぇー!?」
予想外の姫華の剣幕に驚いた芽衣は引け腰になりつつも、「だってぇ」と言い訳をしようとした。
しかしその言い訳を考えるより先に、ガンと背後のベンチからやたら攻撃的な音がして、振り向いた芽衣に姫華が舌打ちをする。
「さっすが華原さん。大学生の次は倉澤なんだ。ああ、その前はD組の野々宮だっけ?やっぱそれだけ可愛いと男ヨリドリミドリってわけですかー?」
ふんぞり返って芽衣を見下す茶髪の女の子。その後ろに三人立っている。「だれ?」と芽衣が姫華に耳打ちするが、姫華は芽衣には何も答えず振り向いたままの芽衣の頭を掴みグラウンドを向くように捻った。
「ひ、ひめ…無視はよくないとおもうよ」
「だまってろ」
小声で言う芽衣を一喝した姫華は完全に無視を決め込んでしまっているようで、けれどケータイをぱかぱかさせている。なに怒ってるの?と芽衣は首を傾げるが、そんな姫華の癖を知らない少女達は「無視してんじゃねぇよ」と芽衣の女子の手でも簡単に握りこめるくらい細い腕を掴んで背凭れのないベンチから芽衣を引き上げた。
途端、それまで抑え気味だった姫華の眼光が視線だけで人を殺せるんじゃないかという程に鋭く細めれ、芽衣の腕を掴む無礼な手の持ち主の胸倉を掴んで前後に揺さ振った。
怯んだのも束の間、すぐに茶髪の少女は姫華を睨みつける。少女が力んだためか、腕をつかまれたままの芽衣が「いたい」と涙声で訴えた。
「手、放しなよ佐渡」