【実話】ありがとう…。
「コンコン」

とドアをノックする音が聞こえ、美子が顔を出した。


「終わったみたいだね。じゃあ、気を付けて帰ってね」

優しく微笑み、点滴を持って出て行く美子の背中に、

「美子、ありがとう。迷惑掛けてごめん!!」



「どういたしまして」

と美子は、笑ってくれた―‐。


詰所に戻り、迷惑を掛けてしまった人、一人一人に謝って、帰り支度をする。



病院を出て、帰る途中も、フワフワと雲の上を歩いているようで、地に足が付かない。


何とか家に辿り着く。


癌…テレビドラマでは何度も見てきた。


でも、実際に自分の周りの人がなるなんて…思わなかった。

これからどうすればいい?

頭が真っ白になって、何も考えられない―。


仕事から帰って来た母に、話をする。


「たかさん今日、病院に行ったら、癌だって言われた」



「えっ?」



「肺に転移してるし、これからどれ位生きられるか分からない。でも…。傍に居たいの!もう…後悔はしたくない」


黙っていた母が、重い口を開く。


「アンタはどうしていつも辛い道ばかり自分で選ぶの…。ダメだって言っても聞かないんでしょう?好きにしなさい」


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