落日


私と香織はほぼ同時に小首を傾げ、店員を見た。


「こちらのケーキ、サービスです」

「……えっ……、サービス?」


怪訝そうな顔で訊く香織に、店員はにこやかに微笑んでいる。

何度も利用しているのに、サービスでケーキが出されるのは初めてだ。

店員は、顔をしかめる私たちを前に笑顔を崩さず、小さな声で耳打ちしてきた。


「うちのスタッフ、伊佐からのサービスです」

「―――っ!?」

「……依子?」


名前を聞いた瞬間、驚きのあまり、私は飛び跳ねるようにして席を立った。


< 43 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop