落日
私と香織はほぼ同時に小首を傾げ、店員を見た。
「こちらのケーキ、サービスです」
「……えっ……、サービス?」
怪訝そうな顔で訊く香織に、店員はにこやかに微笑んでいる。
何度も利用しているのに、サービスでケーキが出されるのは初めてだ。
店員は、顔をしかめる私たちを前に笑顔を崩さず、小さな声で耳打ちしてきた。
「うちのスタッフ、伊佐からのサービスです」
「―――っ!?」
「……依子?」
名前を聞いた瞬間、驚きのあまり、私は飛び跳ねるようにして席を立った。