落日
この感情が何なのか、自分でも分からない。
前から知っていたと、さらりと言う聡を前に、私はからだじゅうの血液が逆流していくのを感じた。
「フィレンツェで偶然会ったときは、びっくりしたけどね」
言葉が出てこない私は、ただ唖然とするだけだった。
それまで胸の奥で静かに鳴り続けていた鼓動が、少しずつ大きく、そして前へと押し寄せてくる。
聡は、そんな私の胸のうちなど知らずに、さらに話を続けた。
「最初はさ、まさかって思って、どこに住んでいるのか訊いてみたんだ。そうしたら、同じ町だろ? ――あぁ、やっぱりな……って」
「聡、ずっとこのカフェで働いていたの?」
「あぁ、そうだよ」