落日
――人の気持ちは変わる。
でも、結婚が少しずつ現実味を帯びてきた今の状況での心変わりなんて、あまりにも酷すぎるんじゃないだろうか。
「別れるなら、今だよ?」
黙りこくった私に、香織はめずらしく厳しい表情で訴えかける。
「ズルズルいってしまったら、後で取り返しのつかないことになるよ?」
まるで、時限装置のような言葉。
香織の言うことは、正しい。それはじゅうぶんに分かっている。
私はその場で結論を出せず、「そうだよね」と、同調することしかできなかった。
香織と別れて、再び戻った自分の部屋。
私はソファに身を沈め、聡にもらったユーロ紙幣を眺める。