落日
『あぁ、依子かぁ。どうした?』
どうした、と、訊かれて答えに困る。
用事があったわけじゃない。ただ単に、声を聞きたかったから。もう一度会いたいと思ったから。
もちろん私には、そういったことを素直に伝える勇気も、そして権利さえもない。
答えに詰まり無言のままの私に、聡は明るい声で言った。
『ありがとう、電話くれて。待っていたよ』
「…………」
『今日……、これから会える?』
「これから?」
突然の誘いに、私の視線は自然と壁に掛けられた時計へと注がれる。