落日


腰を上げた聡は、リビングの隣にある部屋のドアを開けた。

灯りもない薄暗い部屋から聡は器用に探し物を見つけ、すぐにリビングへと戻って来た。


「はい、どうぞ」


イタリア語の新聞紙にくるまれた、なにか固いもの。

丁寧に新聞紙を外していくと、深紅のベネチアングラスが顔を出した。


「わ……。かわいい」

「日本に帰る前にさ、街中でこれを見つけた瞬間、依子の顔が浮かんだんだ。で、思わず買ってしまったって言うか……」


買った経緯をあますことなく正直に話す聡を見て、聞いていた私の方が恥ずかしくなる。

私は聡の顔を見ることができず、膝の上に乗せたベネチアングラスに目を落とす。


「ありがとう。大切にするね」

「気に入った?」

「うん。すごく気に入った」


< 66 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop