落日
腰を上げた聡は、リビングの隣にある部屋のドアを開けた。
灯りもない薄暗い部屋から聡は器用に探し物を見つけ、すぐにリビングへと戻って来た。
「はい、どうぞ」
イタリア語の新聞紙にくるまれた、なにか固いもの。
丁寧に新聞紙を外していくと、深紅のベネチアングラスが顔を出した。
「わ……。かわいい」
「日本に帰る前にさ、街中でこれを見つけた瞬間、依子の顔が浮かんだんだ。で、思わず買ってしまったって言うか……」
買った経緯をあますことなく正直に話す聡を見て、聞いていた私の方が恥ずかしくなる。
私は聡の顔を見ることができず、膝の上に乗せたベネチアングラスに目を落とす。
「ありがとう。大切にするね」
「気に入った?」
「うん。すごく気に入った」