落日
バスタブにお湯をたっぷりと張り、お気に入りのカモミールの入浴剤を入れて、のぼせてしまうほどに浸かっていたい。
けれど今の私には、そんなくつろぐ余裕さえもない。
一分一秒が惜しい。早く、会いたい。
まるで追跡されている犯罪者のように、私は焦ったように髪と身体を一気に洗い上げていく。
そのくせ、お風呂上りのケアはほんの少しだけ時間をかけた。
ストロベリーの甘い香りがするボディバターを全身に擦り込む。
『甘い匂いがする』
昨日、私をはじめて抱いた聡が最初にそう言った言葉を思い出す。
誠司には一度も言われなかった言葉。
誠司にとってこの香りは『私』という人間を作り出す一部であって、飽きるくらいに一緒にいるから、改めて言葉にはしないのだろう。