落日


普段どおりの化粧をして、肩まである緩やかなウェーブの髪にワックスをつけて。

クローゼットを開けて最初に目についた服に袖を通すと、私は鏡でもう一度、自分の姿をチェックして部屋を出た。


さっきと同じ通り道を足早に歩きながら、聡のことを考える。

昨日はお互いのことを何も訊かなかったし、話すこともなかった。


聡が住んでいるマンションを見て思ったことは、聡と私が同じ生活レベルではないということ。

カフェの仕事だけで、あんなマンションに住めるはずがない。

両親が莫大な資産を所有していると見るのが一般的だろう。

それかもしくは、聡自身が、私には想像もつかないような遠い存在の人間であるか。


どちらにしろ、私と聡のあいだには、目に見えない大きな壁が存在しているようにも思えた。


< 76 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop