果物ナイフが折れればいい
果物ナイフを両手で握り、テーブルに乗せた鏡へ切っ先を宛がう。

僕が僕の僕によって串刺しにされる瞬間、強く思った。


果物ナイフが折れればいい。

そうしたらそれは、今手に握っている僕より、そこにいる僕がより優れているっていうことだから。

僕は、掌に汗が浮かぶほどの時間待ち、そして力を込めた。

僕によって僕に突きつけられた僕、折れなかった。

折れなかった。折れなかったんだ。

は、は、と笑うしかなかった。

ご覧、さあご覧。あれだけ素敵だった僕の鼻面に、果物ナイフが見事に突き立っているよ。

さっきの果物ナイフの僕が、そこに移住しているよ。

どうしてくれるんだ、と、僕はそいつを詰ることしかできない。

どうしてくれるんだ、とね。
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