幻妖奇譚

∽狂気の男∽

「かはっ!! げほっげほ……!!」

 締め付けられていた気管にいきなり酸素が入り込み、激しくむせるヨシエ。

「ヨシエ!? 大丈夫?」

 少しでも楽になるようにと、ヨシエの背中をさする先輩。

「せ……ぱい、あれ……ちがう……ぅげほっ! チエじゃ……ない!!」

 目を両手で押さえてもがくチエ。しかし、その仕草は普段のチエとは違い、まるで男の様だった。

「誰よ!? あんた!」

 先輩が携帯のライトをチエに向ける。

『……ナンデ、邪魔ヲスル? 僕、ハ悪クナイ……悪イノハ……悪イノハ僕ヲ馬鹿ニスル奴ラ……』

「チエをどうしたの!?」

 やっと呼吸が整い、首をさすりながらも、チエの姿をした誰かに叫ぶヨシエ。

『僕、ハ……花ニナッタ。デモ……気付クト、コノ女ノ中ニ、イタ……』

『アノ眼鏡ノ女……、馬鹿ニシタンダ……。コノ僕ヲ……馬鹿ニシタ!! ダカラ……痛メツケテヤッタ』

「あんた……まさか、踏切で死んだ男?」

 顔を見合わせ、同じ言葉をハモる先輩とヨシエ。

『僕ハ死ンデナイ!! 死ンダノハ……死ンダノハ、アノ男ダ!!』

「……あの男って?」

 ヨシエが不思議そうに呟く。



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