幻妖奇譚
 夕食を済ませ、食器の後片付けをする。

「よし、終了……っと」

 キュッ、と蛇口を締める。

 そういえば冷蔵庫に梨があったなぁ……。パパ、食欲ないって夕飯半分しか食べてなかったけど、梨なら食べられるよね?

 夕食後すぐに、寝室へ入ってしまったパパが食べやすいように八等分に切りわけ、皮を剥く。

 パパを呼ぼうと、寝室のドアをノックしようとした時、中から話し声が聞こえた。

 何だろ?電話かな?ぼそぼそ、と何か喋ってるのはわかるけど……。

 とりあえず声だけでも掛けておこう、とドアをコンコン、とノックした。

「パパ? 梨剥いたんだけど、デザートにどう?」

「ああ、ありがとう。頂くよ」

 カチャ、とドアを開けて応えたパパはさっきまでと違い、顔色が随分良くなっていた。

「ね、さっき話し声が聞こえたんだけど、誰かと電話してたの?」

「あ、ああ。そう、明日の会議の事でね」

「家に帰ってまで仕事の話なんて、大変だね。あ~あ、あたし大人になりたくないなぁ」

「じゃあ沙希、ずっとパパの側にいてくれるかい? もちろんお嫁になんか行っちゃいけないよ?」

「え……?」




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