幻妖奇譚
 午前9時

 研究所に置いてある七個の鉢植え。『七』は僕の好きな数字だ。右から三番目の鉢だけに、深紅の薔薇が咲いている。

「咲い……た。やった! やったぞ!!」

 大学に入学してからの三年と半年が報われた瞬間であった。

「レポート……そうだレポートにしなきゃ。ああ、その前に彼女に見せてあげなきゃ」

 携帯電話を取り出し、教授から教えられた番号を押していく。

「ああ、くそ。手が震える!」

 新種の薔薇が咲いた事の興奮なのか、久しぶりに彼女に電話する緊張なのかわからない。思い浮かぶのは、満面の笑みで喜んでくれるだろう彼女の顔。だが――。

『お掛けになった番号は只今使われておりません。番号をお確かめの上もう一度お掛け直しください』

 おかしい。番号を押し間違えたのだろうか?もう一度、今度はしっかりと確認をしてみる。が、先程と同じ様に無機質なアナウンスが流れるだけだった。

 彼女が自分に黙って番号を換えるだろうか?彼女と会わない間に、彼女の身に何事か起きたのではないか?

 不安に苛まれ、自分と彼女を引き合わせてくれた教授の元へと走り出していた。



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