幻妖奇譚
 午前11時

 教授から聞いた話が信じられない。

 ――彼女が他の男と卒業後に結婚?

 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だっ!!!!

 僕をからかってるんだ。

 新種の薔薇を咲かせた僕に嫉妬しているんだ!

 彼女とはたった一度、食事しただけだったが、不誠実さは感じられなかった。

 内向的で話下手な僕を馬鹿にしなかった。研究が成功する事を祈っている、と応援してくれた。

 だからこそ、誰よりも一番に見せてあげたい。彼女に会ってからは、薔薇を咲かせる事が彼女への最高の愛情表現になると信じていた。

 なのに。

「結婚だって? この僕以外と?」

 ……そうか!彼女はふてくされているだけだ!僕が余りにも研究研究で、彼女と会う時間さえ惜しんだ事に腹を立て、勢いで教授に言ってしまったんだ。

「そうだ……そうに違いない。謝らなきゃ」

 急いで彼女に謝罪をしよう。これからは寂しい思いはさせないと誓おう。

「待てよ……。何も持たないでいくわけにいかないか……」

 女が喜びそうな物。何より薔薇を見せてあげなきゃ――

「薔薇……そうだ、花を買って行こう!」

 彼女が好きだと言ってたガーベラの花束を持って行けば、きっと機嫌を直してくれる!

 そしてガーベラ達の真ん中に薔薇を挿して、驚かせてあげよう。


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