幻妖奇譚
 パパが指差した方向を見る。

 そこは……







「寝……室?」

「美沙は、あの鏡に吸い込まれていたんだ」

 鏡……鏡が人を吸い込んだ?

「ママは……無事なの?」

「もちろん元気だよ。沙希も久しぶりに美沙に会いたいだろう?」

 そう言ってパパはあたしを寝室の鏡の前まで連れていく。

「美沙……。沙希だよ、僕たちの娘だ。こんなに大きくなったよ」

 あたしとパパを映し出していた鏡は、次第に長い髪の女性の姿を映し出す。

「マ……マ? ママなの!?」

 目を疑ってしまった。だって……鏡に映っているのは、どう見ても20代前半の綺麗な……あたしの記憶の中のママだった。

「鏡の世界は時間が流れないらしくてね、美沙は若く綺麗なまま、ずっとパパと沙希を見守ってくれているんだよ」

「こんな事って……」

 パパは鏡の中のママを愛おしそうに見つめ、話しかけている。でも……ママがそれに応える事はない。

 鏡は、サキは人を殺すだけじゃないんだ……。そして鏡の中では永遠に生き続けられる――。

 ……この時あたしは、ママに会えた嬉しさよりも、鏡に秘められた新たな力に魅了されていた――。



< 92 / 96 >

この作品をシェア

pagetop