幻妖奇譚

∽鏡∽

 幸せそうにママに語り掛けるパパ。でもそれって、本当に幸せなの……?

 愛してるならその人に触れたいと、普通なら思う筈よね?


「パパ……あと二つ質問してもいい?」

「もちろん構わないよ」

「サキの事、いつから知ってたの?」

「沙希が教えてくれたんだよ、覚えてないかい? 小さい頃、雷が鳴って怖くてパパのベッドに潜り込んだ時に“サキは大丈夫かな”って言ったんだよ。パパが、沙希はパパといるだろって言うと“鏡の中にいる妹のサキだ”ってね」

「……覚えてない。あたし、そんな事言ったの?」

「沙希も鏡に魅了されてる、とその時確信したよ。で、あと一つの聞きたい事ってなんだい?」

「パパは幸せ? ママは確かに綺麗で若いままだけど、ママに触れたいと思わないの?」

「……うん、確かに美沙を抱き締めたいと思う時もあったよ。でもね、パパは美沙に変わらない愛があるんだという約束を果たさなければならないからね」

「そう……なんだ」

 ……そんな愛もあるんだ。だけどね、パパ……。

 “心なんていつかは変わる”――だったら、あたしがパパとママに出来る事は一つしかない……よね?



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