鈴が鳴る~イブの贈り物~
 そうして香奈子の住むマンションに着いた。

 さとるは自動扉を抜け、エレベーターに向かおうとして、立ち止まった。

 エレベーターに先客が居た。

 香奈子だ。

 横にいるスーツ姿の男が、香奈子に耳打ちした。

 香奈子は男の肩を親しそうに軽く叩いた。

 さとるの知らない男だ。

 長身だが、多少ぽっちゃりはしているものの、全体的に気品を漂わせている。

 スーツにしても、金をかけているのが遠目でも分かった。

 香奈子の手には、薔薇の花束がにぎられている。

 さとるに気づいたのか、男が軽く会釈をした。

 エレベーターに乗るものと判断し、開閉ボタンを押しているのか、扉は閉まらない。

 さとるは逃げたいという気持ちとは裏腹に、駆け足でエレベーターに向かっていた。

 香奈子に正体がばれることを、無意識の中で望んでいるのかもしれない。

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