鈴が鳴る~イブの贈り物~
 その時、さとるは会社からの帰り、自分の前に居て転びそうになった女の事を思い出した。

 ヴィトンのバッグに見覚えがあった。

 さとるが見つめている事に気づいたのか、女が立ち止まった。

「なんですか?」

 女が非難するように言った。

 さとるも普段なら素直に謝っただろうが状況が状況だ。心の中は真っ黒だ。

 それでも相手は女で悪酔いしている。文句を言う訳にもいかない。

 さとる無視を決め込み、女の横を通り過ぎようとした。

「なんなんですか? 泣いている女がそんなに珍しいんですか? ふられたんですよ。悪いですか? ふ、ら、れ、た、ん、で、す。ふざけんじゃないわよ。あー、そんなの、そんなの信じらない。他に好きな人ができたなんて陳腐すぎる。それにこの雪! 何度転んだんだか。情けない情けない痛いし、もー訳わかんない!」

 女は早口で怒鳴ると、さとるの腕を掴んで引っ張った。

「なによサンタの格好なんかして! あたしへの嫌味なの!?」
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