恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
こんな時、どんな声をかけたら智子は救われるんだろう……。
『きっと大丈夫』
『拓也くんはわかってくれる』
智子の不安や痛みを思うと、簡単に言葉を口にしてはいけない気がする。
私は、涙を落す智子の手を握ることしか出来なかった。
洗いかけの食器についた白い泡が、時の流れと共にゆっくりと重力によって流されていく。
智子の痛みも、こんなふうに自然と消えてくれればいいのに……。
けど、人の心に残ったものは、泡のようには消えてくれない。
何も出来ない自分の力のなさに、喉の奥が熱くなってくる。
その熱の上昇を止めるかのように、おまわりさんの声が聞こえてきた。
「どうした?」
ベランダから家の中に入ってきたおまわりさんが、心配して声をかけてくれた。