恋 時 計 ~彼はおまわりさん~


「おまわりさん……」


振り返った私は、何て答えたらいいのかわからなかった。


おまわりさんは私と視線を合わせた後、背中を向けて泣き続けている智子に優しく声をかけた。


「智子ちゃん、拓也くんと話しておいで」



おまわりさんの言葉に、智子は黙って首を横に振った。


怖いよね……。

好きな人と向き合う時が一番勇気がいるって私も知ってる。



私は智子とおまわりさんの間に、少しの沈黙を感じた。



「拓也……おまわりさんに何を話してたんですか?」


視線を下に落としたまま口を開いた智子の声は、怯える子猫のように震えていた。



「それは教えられないな。拓也くんの口から聞きたいことでしょ?」


おまわりさんは小さく微笑み、智子の両肩に優しく手を置いた。


「ほら、行っておいで。
怖がらなくても大丈夫だよ」



おまわりさんの言葉に、智子は堪えていた泣き声を一瞬漏らして小さく頷いた。


そして私とおまわりさんに視線を重ねた後、ゆっくりと拓也くんがいるベランダへ向かった。




< 271 / 712 >

この作品をシェア

pagetop