恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
「おまわりさん……」
振り返った私は、何て答えたらいいのかわからなかった。
おまわりさんは私と視線を合わせた後、背中を向けて泣き続けている智子に優しく声をかけた。
「智子ちゃん、拓也くんと話しておいで」
おまわりさんの言葉に、智子は黙って首を横に振った。
怖いよね……。
好きな人と向き合う時が一番勇気がいるって私も知ってる。
私は智子とおまわりさんの間に、少しの沈黙を感じた。
「拓也……おまわりさんに何を話してたんですか?」
視線を下に落としたまま口を開いた智子の声は、怯える子猫のように震えていた。
「それは教えられないな。拓也くんの口から聞きたいことでしょ?」
おまわりさんは小さく微笑み、智子の両肩に優しく手を置いた。
「ほら、行っておいで。
怖がらなくても大丈夫だよ」
おまわりさんの言葉に、智子は堪えていた泣き声を一瞬漏らして小さく頷いた。
そして私とおまわりさんに視線を重ねた後、ゆっくりと拓也くんがいるベランダへ向かった。