恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
「トイレに行ってくるね」
緊張感ととも生理現象が訪れた私は、入ってきたばかりの病室を後にした。
なんだか悪いことをした子供みたい。
子どもと大人の境目を、行ったり来たりしているようだった。
廊下に出て角を曲がろうとした時、心臓が飛び跳ねた。
花瓶の水を取り換えたお母さんが、こっちに向かって歩いていた。
うわぁ~、お母さんだぁ~……。
同じ建物内に居て、必ず会うってわかってたのに、私の心臓は騒ぎ続ける。
私は平静を装って笑いかけた。
「おはよう。早くからこっちに来てたんだね」
「ええ、お父さんの着替えを届けなきゃいけなかったから」
何もなかったように、私に答えるお母さん。
ああ、この”普通”が一番こわい。