**confection**




どこで用意しておいたのか、時期外れの鍋のセットが運び込まれる。



手伝おうと腰を上げ掛けた俺を、主役だからとまだ寝ぼけ眼の俊に止められた。



大して腹も減ってなかったはずなのに、鍋が出来上がっていく頃には腹の虫が空腹を知らせる。


なんだかんだ、まだまだ成長期には違いないので、寝ていても十分に胃の中は消化されてしまったようだ。



「…あの…なんで鍋?」



今は4月だし、夜は少し肌寒い日もあるが、鍋なんか食べたら滝のような汗が吹き出してくるに違いない。


そしてなにより、時期外れもいい所だ。



「ももが鍋食いてえって言うから、鍋にした」



俺の疑問に答えたのは、宗太だった。


家主でもある宗太が言うのなら、間違いのない情報だろう。



チラリと隣のももを見ると、すぐにキョトンとした瞳とぶつかる。



別に何か狙った訳でもなさそうだし、てゆーかももがそんな事考えるほど、ボケ側の人間ではない。


ボケ担当なら、龍雅には違いないのだけども。



「えっ、私間違えちゃった!?」



「いや…別になんでもいいんだけど。ただ、なんで鍋なのかなあと」



別に嫌いじゃないし。ただ単に、なんでこの時期に鍋なんだって言う事が疑問なだけで。


冬なら普通に、どこの家庭でも一度や二度、それ以上に食べるのは当たり前に近いと思うけど。




「うち全然鍋とかみんなで囲うご飯しないから、てゆーか家族揃ってご飯とかしなくて、だからみんなと鍋食べたいなって!!」



「まあ、最近は好きな奴は夏でも鍋するって聞くしな〜!!熱中症とかなんねえのか!?」



「龍雅は夏になると、もっと可笑しくなりそうだね」



何となく吐かれた言葉に、ももに釘付けになった。


ただただ純粋なその想いに、思考回路が固まった気がした。
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