伝えたいんだ



「なんでもないように振る舞って、『彼氏か?』なんて聞いたけど、内心はそんな穏やかじゃなかったんだ。―――その彼氏を、殴りに行きたくて仕方なかった。」



「…………」




「バカだよな。後々になって気付いてくんだ。」




言いながら笙多兄は拳を握って目を瞑る。





「会社に行って、ずっと頭の中は結花ばっかで。いつも『好き』って言ってくれる言葉はなんでかその日は過去で。」



『好きだった』



「考え出したら止まんなくなって、その日はなんとか仕事は終えたけど、気になって気になって、問い詰めたかった。」



「……………」



「いつも朝会うから次の日になったら聞こう、聞こうって。だけどさ、いくら待ってもお前は出てこなかった。」






そりゃそうだよ。



大学行くために、引っ越したんだもの。






「なんだよ無視かよ、なんて最初はムカついて、そのうち気にしなくなんだろ、って高括ってた。だけど日に日にイライラは増してきて、自分じゃどうしようもないくらいになってた。」




それで4ヶ月。



バカだよな。


お前が大事な存在だって気付くまで、そんなにかかったんだぜ?




なんて自嘲気味に笑う笙多兄は、見ていて痛々しい。





「イライラが溜まって、ついに悪くないのに母さんにまであたっちまって。でもま、そん時に知ったんだけどな。お前が、家出たって。」




『結花ちゃんはしっかりと自立していったのにあんたはまだまだ子供ね』



言われて、え、って返すと『今独り暮らししてるのよ』って、初めて聞いた、



なんで言わなかったんだよ



ムッと怒ったような表情はとても五歳も年上に見えない。


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