【SR】メッセージ―今は遠き夏―
二人は、バス停から少し路地を進んだところにある、「かくれんぼ」という喫茶店に入った。
ひっそりとした佇まいは、知る人ぞ知るといった雰囲気で、まさに名前通りだ。
本棚に近い、入り口付近のテーブルに通された。
そこには、週刊雑誌に混ざって背表紙のはげかけた絵本も数冊並んでいるのが見える。
小さい頃、貧しい生活の中で唯一惜しみなく楽しめる娯楽が絵本だった。
懐かしくなった百夏は思わずその中の一冊を引き抜くと、パラパラとめくって読んだ。
『ヘンゼルとグレーテル』
おいしそうなお菓子の家の前でにこやか手を繋ぐ、二人の兄妹の絵が表紙だ。
ストーリーは、百夏が知っているものと少し違った。
記憶にあるのは、ヘンゼルとグレーテルが、貧しさのあまり森の中に捨てられるという内容だ。
だが手元の本では、野いちご摘みのお使いに出された二人が、森の中で迷ってしまったというストーリーだった。